イサン演歌の名曲〜「モーターサイクルハーン」(オンボロバイク)歌詞翻訳
- akiyamabkk
- 2024年9月10日
- 読了時間: 5分
20年以上前にヒットした、アップビートなタイ演歌、というかイサン演歌、「モーターサイクルハーン」。典型的な、タイ演歌、イサンモーラムとは言い難く、イサンの人が「ロックイサーン」と呼ぶような曲調かもしれない。(しかし、考えてみると、「ロックサレーン」というバンド名は「サレーン村のロック」という意味だから、やはりこれはロックなのだ)
「モーターサイクルハーン」は、日本語で「フルぼけたバイク」という意味らしい。「こんなオンボロバイクじゃ、女の子は誰も相手にしてくれない。ピックアップトラックを乗り回している警察官が羨ましい」と、新人教師が愚痴っている歌のよう。歌詞は中央タイ語ではなく、イサン方言だが、少し共通語の方に寄せている感じだ。この歌は、全国的な大ヒットとなった。
イサン語の歌は翻訳が面倒なので、日本語訳を試みていなかった。カミさんはイサンの人だが、仕事なら協力してくれるが、趣味の翻訳には取り合ってくれない。(彼女は色々忙しいのだ。)が、試しに、Chat GPTにお願いしてみたら、驚いたことに、これが、わかるのですね、イサン方言が!恐ろしい時代になったものだ。中央タイ語に変換したものを、試しにカミさんに確認してもらったら、直訳すぎるきらいはあるが、ほぼ、正確に中央タイ語に言い換えているのだという。
イサン語の原文歌詞は下のアドレス。
以下、タイ語、イサン語を勉強している方のために、ChatGPTによる中央タイ語訳?をコピペしておきます。
มอเตอร์ไซค์เก่า
ฉันเป็นครูใหม่
ฉันเป็นครูใหม่ เพิ่งได้รับการบรรจุ
ขี่มอเตอร์ไซค์คันเก่า ไม่มีใครสนใจ
ขับรถกระบะคันหรู โตโยต้า ดูดีจริงๆ
มาที่นี่ มาเที่ยว มาเยี่ยม ส่งคุณทุกเช้าและเย็น
มาที่นี่ มาเที่ยว มาเยี่ยม ส่งคุณทุกเช้าและเย็น
มอเตอร์ไซค์เก่า
มอเตอร์ไซค์เก่า มอเตอร์ไซค์เก่าบนทางลูกรัง
ฝุ่นเกาะติดแน่น จนทำให้หัวแดง
รถกระบะคันหรู โตโยต้าขับแซงไป
สาวหน้ามีแก้มแดง คอยอยู่ข้างเขา
สาวหน้ามีแก้มแดง คอยอยู่ข้างเขา
เขามีรถรับส่ง
เขามีรถรับส่ง โฉมยงลืมซ้อนท้ายเรา
เขามียศมาอวด เป็นตำรวจร้อยตรีมีดาว
จบนายร้อยหมาดๆ มาดไม่เบา
ส่วนตัวเราราชภัฏพอกระเทิน
น้ำตาครูใหม่ น้ำตาครูใหม่ หยดไหล
อยากจะมีรถปิคอัพขับเหลือเกิน
มอเตอร์ไซค์เก่า มอเตอร์ไซค์เก่า เขาหมางเมิน
อยากจะกู้เงินสหกรณ์ผ่อนรถยนต์
อยากจะกู้เงินสหกรณ์ผ่อนรถยนต์
ขามีรถรับส่ง
เขามีรถรับส่ง โฉมยงลืมซ้อนท้ายเรา
เขามียศมาอวด เป็นตำรวจร้อยตรีมีดาว
จบนายร้อยหมาดๆ มาดไม่เบา
ส่วนตัวเราราชภัฏพอกระเทิน
น้ำตาครูใหม่ น้ำตาครูใหม่ หยดไหล
อยากจะมีรถปิคอัพขับเหลือเกิน
มอเตอร์ไซค์เก่า มอเตอร์ไซค์เก่า เขาหมางเมิน
อยากจะกู้เงินสหกรณ์ผ่อนรถยนต์
อยากจะกู้เงินสหกรณ์ผ่อนรถยนต์
以下、日本語訳。
オンボロバイク
僕は新米教師 仕事を始めたばかり
オンボロバイクに乗る僕には 誰も鼻も引っ掛けない
トヨタの豪華なピックアップ 乗れたらかっこいいだろうな
あちこち乗り回して 君を送り迎えするんだ
あちこち乗り回して 君を送り迎えするんだ
オンボロバイク オンボロバイク
土ボコこりが立つ道を行くと 顔が真っ黒になる
トヨタの豪華なピックアップが追い越して行く
赤いほっぺのあの娘が 助手席に座っている
赤いほっぺのあの娘が 助手席に座っている
あの娘は送り迎えをしてくれる彼氏ができて
僕のバイクの後ろに座ったことなど忘れてしまった
彼氏は徽章の星も誇らかな警察官
幹部学校を卒業したばかりの将来有望な男だ
僕は平凡な師範学校の卒業生
新米教師の涙、新米教師の涙 涙が出てくるんだ
ああ、あのピックアップトラックが買えたらなあ
オンボロバイク オンボロバイクにあの娘は冷たい
だから共済組合に借金して月賦で車を買うんだ
だから共済組合で借金して月賦で車を買うんだ
あの娘は送り迎えをしてくれる彼氏ができて
僕のバイクの後ろに座ったことなど忘れてしまった
彼氏は徽章の星も誇らかな警察官
幹部学校を卒業したばかりの将来有望な男だ
僕は平凡な師範学校の卒業生
新米教師の涙、新米教師の涙 涙が出てくるんだ
ああ、あのピックアップトラックが買えたらなあ
オンボロバイク オンボロバイクにあの娘は冷たい
だから共済組合に借金して月賦で車を買うんだ
だから共済組合で借金して月賦で車を買うんだ
おわり
どうです、面白い歌詞でしょう。イサンの人が好む、ルークトゥンやモーラムは、庶民生活の悲喜交々を気取らずに表現しているところが面白いし、その率直さにしばしば感動させられる。時事問題にも敏感で、911の時にはビンラディンの歌を作るし、コロナウィルスが流行すると、隔離生活を愚痴る歌がリリースされる。
この歌の詞など、20年以上前のものだが、新米教師の生活の大変さは、今も大して変わらない。親がかりでなければ、着任して一年後に教員組合からお金が借りられるようになって、始めて一息つけるというのが実情だと思う。そして、その時、借金してまず買うものは、やはり車なのである。細かいことを言えば、この新米教師は、その借金待機期間中なのだと思う。公務員だから、やはり恵まれた立場なので、車が買えないということではない。

この歌を作詞、作曲した サンニャラック・ドンシーは、私の奥さんの村の出身であり、地元の学校で先生をしていた人だ。ロクサレイというこのバンドのボーカル、チューンさんは、中学生のころ、ドンシー先生の教え子だった。先生は、彼以外にも、学校の教え子から、幾人も有名歌手を出して、業界でも「アチャーン(先生)」と呼ばれる、タイ演歌界の大御所となった。今でも村に住んでいるが、以前は、村の行事などに時々顔を出したが、最近はほとんど姿を表さない。
ドンシー先生の「元教師」と言う経歴を考えると、この歌は、先生自身の新米教師時代の感懐を歌ったものかもしれない。うーん、「感懐」という言葉は上品すぎるか・・・。
この歌は、先生が新米教師時代の、失恋体験、不遇感、羨望、嫉妬、焦燥を、自虐的に愚痴っている歌なんだろうと思う。あちらのブルースなども、英語で歌ってるからカッコよく聞こえるが、女の人に振られたり、蔑ろにされたり、泣かされたり、泣かしたりしたことを、殷々滅々と嘆いているわけで、「男の愚痴」を歌うことは、流行歌の王道だったのだ。
あちらのブルースと違うのは、イサンの人たちは、散々、愚痴を並べたあげく、「共済組合で借金して車を買うんだ」と、極めて現実的、かつ近視眼的な答えを見出して、気を取り直す、この楽天性である。考えてみると、所詮は、その程度の話しなのであって、彼らが生きている風土に、突き詰めて、大問題にするほどの問題は、ほとんど存在しないのだ。
この歌、飄々として、虚無的なのか楽天的なのかよくわからない、ケーンのイントロの音色が素晴らしく、すぐ引き込まれたし、マジで「イサンらしいな」と思った。歌詞も愚痴っぽくはあるけれども、湿っぽくはなく、イサンの人たちが生活のピンチを乗り切っていく、そのトーンと平仄があっているように感じられる。やっぱり、ドンシー先生はイサン音楽の天才!である。
伸びやかで明るい歌声のボーカル、チューンさんは、カミさんの話によれば、降って湧いたような成功の重圧に耐えられず、酒浸りになり、若くして亡くなった。ドンシー先生はご存命だが、放埒な生活が祟って糖尿病を悪くし、医者が止めるのも聞かずに、毎日酒を飲み続ける日々だという。こういう成り行きも、「イサンの人だなあ」という感じがして、なんだが感慨深い。
<了>